【 記事内容 】
■人いなければ、ものづくりも開発も困難
ベルトコンベヤーを流れるスプレー缶に、機械が自動車用コーティング剤を詰める。最後にボタンやキャップを取り付け、梱包(こんぽう)するのは従業員の手作業だ。同県小野市にある化学製品メーカー神戸合成の本社工場。「人がいなければ、ものづくりも開発も難しくなる」。相次ぐ賃上げの動きを前に、宮岡督修(まさのぶ)社長(65)が危機感を募らせた。同社は4月、昨年に続き5千円のベアに加え、10万円の特別手当の支給を決めた。今月の社員旅行で発表すると、皆から喝采を浴びたという。「本音は1万5千円ほどベアしたい。でもこの先、業績が悪くなっても下げられない。手当は苦肉の策だった」
■価格転嫁できなくてもベア
少子化や若者の大手志向で新卒採用は容易ではない。定年退職で従業員は目減りし、10年近く前の約50人から34人に減った。一方、取引先の自動車メーカーなどとの価格交渉は思うように進まず、原材料の高騰分全てを転嫁できていない。「設備も更新したいが、人をとらないと会社が持たなくなる」と厳しい中でもベアに踏み切る訳を明かす。
東京商工リサーチ神戸支店(神戸市中央区)が2月、県内企業を対象に行った調査では、2023年度に賃上げ予定と答えたのは84社と全108社の78%に上った。資本金1億円以上の大手の89%(16社)、中小でも76%(68社)を占めた。規模を問わず定期昇給や賞与の増額で対応する企業が目立ち、ベアを実施するのは半数の42社にとどまった。